ディーゼル排気(DE)中には多環芳香族炭化水素(PAHs)が含まれ、その暴露により様々な生体影響が生じることが知られている。しかし、排ガス中濃度ではなく、実際に体内に取りこまれた量と生体影響との量-反応関係に関する知見は乏しい。また、PAHsは代謝の過程で水酸化・抱合化され体外へ排泄される。これら代謝産物を測定する事は、PAHsの暴露量を評価する上で重要であり、その方法を確立する必要がある。本研究では、DEに含まれるPAHs含量を測定し、その組成を明らかにした。さらに、DEを実験動物に一定期間暴露し、その体内に含まれるPAHs含量を測定し、体内動態に関する知見を得る事を試みた。その結果、肺においてDEの用量または暴露時間に依存したPAHsの増加が観察され、肺への蓄積が明らかとなった。一方、肝臓や脂肪組織ではPAHsの蓄積は観察されなかった。一方、DE暴露そのものによる酸化ストレスに加え、臓器内の代謝能力が高まると、体内での酸化ストレスも高まると考え、抗酸化物質であるビタミンA、およびDNAの酸化ストレスの指標である8-OHdGの測定を行なった。その結果、DE暴露が長期間にわたると、肝臓中のビタミンA濃度が低下することが観察された。しかし、肺、肝臓、腎臓いずれかにおいても、8-OHdGの有意な増加は観察されなかった。さらに、肝臓中で何らかの酸化ストレスが存在することが示唆されたため、肝臓中のPAHsの代謝物を測定することを試みた。肝臓を抗酸化物質共存下で過熱処理し、脱抱合酵素処理を施したところ、肝臓中からピレンの水酸化物が濃度依存的に検出され、DE暴露により、肝臓内で代謝酵素が誘導されていることが示唆された。以上から、PAHsの水酸化物を測定することで、その暴露量の推定が可能となった。
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