研究概要 |
本研究では、ヒトとチンパンジー間におけるMHC領域の差異を明らかにするために、チンパンジーのMHC領域のゲノム配列を決定し、ヒトのゲノム配列と比較解析をおこなうことを目的とした。具体的には、チンパシジーのBACクローンを用いて、MHCクラスI領域の約1.6Mbをカバーするコンティグマップを作成し、シークエンシング解析を進めている。これまでにBAC4クローン、660kbを決定した。その結果、HLA遺伝子族の一つであるMICとHLA-B遺伝子間においてチンパンジーにはヒトと比べて約95kbの欠失が存在する。また、欠失や挿入を除けば、ヒトMHC領域の遺伝子構造と一致しており、ヒトゲノム配列との多様性は1.5%であった。特にFB19〜HCGII-3遺伝子間172kbのGC含量はともに46.2%であり、反復配列の割合いも52%とほぼ変わらなかった。また、ドットマトリックス解析における2箇所のチンパンジーに特有な配列や1箇所のヒトに特有な配列には、Alu,LINE,LTRなどの反復配列が含まれているが、この解析を見た限りでは非常に類似した構造であることがわかった。しかし、多様性解析の結果はHLA-E付近を境界として性質の異なる2種類のゲノム配列が存在することが示唆された。すなわち、HLA-E付近よりもセントロメア側の多様性は1.0%であり、これは平均の多様性1.5%を下回るが、HLA-E付近よりもテロメア側は逆に1.8%であり、1.5%を上回る。これは、前者が負の選択(negative selection)により遺伝子の機能が保存されてきた領域であり、後者が正の選択(positive selection)によりMHC遺伝子特有の多様性の増大の方向に進化してきた領域であると考えられた。
|