多発性硬化症や髄膜炎などの中枢神経系の炎症性疾患の患者においては、血液脳関門(BBB)が破綻しており、髄液中の炎症性サイトカインが高値を示すことが報告されている。このとき医薬品の中枢移行性が亢進し、脳神経系に対する薬効・毒性が増大する可能性がある。本研究では、in vitro BBBモデルを用いて、炎症性サイトカインによるBBBの破綻とそのメカニズムについて検討した。 脳微小毛細血管内皮細胞とラットアストロサイトを単離し、TranswellTMのフィルターの両面にそれぞれ培養させてin vitro BBB共培養モデルを作成した。このモデルに、TNFαとIL-1βを単独または併用して添加し、経時的にTranscellular endothelial electric resistance(TEER)値を測定した。細胞をNF-kBまたはiNOS阻害剤で前処理後、TNFαとIL-1βを単独または併用して添加し、TEER値を測定した。同時にメディウム中のNO濃度をグリース法により測定した。 TEER値は、TNFαの添加により24時間後をピークとして濃度依存的に低下した。一方、IL-1βの添加後はわずかなTEERの低下が観測された。TNFαとIL-1βの併用添加により、TEER値はTNFα単独添加時よりもさらに低下した。このTNFαとIL-1β併用添加によるTEER値の低下は、NF-kBとiNOSの阻害剤によりそれぞれ抑制された。さらにメディウム中のNO濃度は、TNFαとIL-1βの併用添加24時間後には有意に上昇しており、各阻害剤の前処理により低下した。以上より、炎症疾患時に産生されるTNFαとIL-1βの共存に基づくBBB破綻にはNF-kBの活性化とiNOSの誘導に基づく酸化ストレスの関与が推察された。
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