研究概要 |
ビタミンB1欠乏(TD)食で飼育した際、うつ行動、落痛感受性の低下、記憶学習障害といった異常行動が認められ、これらの行動メカニズムを検討した。 1.うつ行動に関しては、欠乏食飼育20日目において強制水泳試験法を用いたところ、うつ行動の指標である無動時間が増加した。この飼育20日目におけるTDマウスの無動時間の増加は、imipramineの慢性投与により減少した。これらのことから、TDマウスがうつ病の適当な動物モデルになる可能性を示唆した。 2.疼痛感受性については、欠乏食飼育20日目においてホルマリン試験法を用いたところ、有意なlicking行動の減少が認められた。この減少はthiamine HClを飼育初期に投与すると消失した。このメカニズムをSubstance P(SP)とSomatostatin(SST)の面から検討した結果、SP及びSSTを欠乏食飼育20日目のマウスに脊髄内へ投与するとScratching, Biting及びLicking行動がコントロールと比べ増加したことから、TDマウスの疼痛感受性の低下は少なくとも非可逆的なSPとSSTの神経変性が関わっており、これらのことが原因で脊髄におけるSPとSSTの感受性が増加している可能性を示唆した。 3.記憶学習については、欠乏食飼育15日目及び20日目において障害が認められ、この障害はムスカリン(M)受容体アゴニストのoxotremorine、M1受容体アゴニストのMcN-A-343によって改善された。しかし、ニコチン受容体アゴニストのlobeline及びM2受容体アンタゴニストのmethoctramineによっては改善されなかった。以上のことから、TDマウスの記憶学習障害の改善には、中枢M1受容体が重要な役割を担っていることを示唆した。
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