昨年度の検討からプロスタグランジンE_2(PGE_2)がブラジキニンやサイトカインなどの炎症性メディエーターの産生や作用を受容体を介した細胞内情報伝達機構により相互に制御することが示唆された。本年度は、中心的な役割を果たすPGE_2の産生を調節する酵素としてPGE_2合成酵素に注目しその転写調節機構を検討した。PGE_2合成酵素のゲノム遺伝子構造を決定し、転写調節に関わるプロモーター領域の配列を決定した。この領域をレポーター遺伝子と結合し、トランスジェニックマウスを作成した。このマウスの各種臓器でのレポーターの活性とPGE_2合成酵素の発現には相関が認められ、この領域がPGE_2合成酵素の発現に直接関わると考えられた。そこで、この領域についてin vitroで転写活性(レポータージーンアッセイ)の測定を行った結果、約150bpの断片中に転写活性の上昇に重要な部位が存在することが示唆された。そして、様々な蛋白質化学的手法や免疫学的な検討からこの領域には初期応答性の転写調節因子であるEgr-1が結合することが明らかとなった。以上からEgr-1は炎症性刺激や病変に伴いPGE_2合成酵素の転写を制御しPGE_2産生に深く関わることが示唆された。また、Egr-1はサイトカインや成長因子などの発現調節に関与することが報告されているため、PGE_2産生がこれらの蛋白質と発現レベルで同調して調節されている可能性が考えられた。本研究で得られたPGE_2合成酵素の転写調節機構に関する知見はPGE_2の過剰産生などにより引き起こされる炎症性疾患の病態の解明と治療法の開発に有用な情報になるものと考えられた。
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