微量元素は生体内において様々な酵素反応の活性化因子及び不活性化因子として働き、その細胞内濃度が厳密に制御される必要がある。白内障は水晶体が混濁し視力障害をきたす疾病であり、その発症機構として紫外線等から発生する活性酸素種による障害が提唱されている。水晶体において微量元素が重要な役割を果たすことが考えられるため、本研究では正常及び白内障水晶体における微量元素、特に抗酸化作用を持つと考えられる亜鉛及び細胞内情報伝達に重要なカルシウムに着目し、その輸送機構について検討を行った。正常6週齢成熟ラット及び13日齢幼若ラットより水晶体を摘出し、種々の放射性微量元素を含むマルチトレーサー中で培養したところ、両ラット水晶体にBe、Sc、V、Mn、Fe、Co、Zn、As、Se、Rb、Sr、Y、Zr、Ru、Rhの15核種が移行した。しかし、その移行量は核種により異なっており、また成熟及び幼若ラットで異なっていた。15核種の中では亜鉛が最も多く水晶体に取り込まれており、その取り込み量は成熟ラットと比べ幼若ラット水晶体でより大きかった。従って、ラット水晶体には成長の異なる種々の微量元素輸送機構が存在すること、その中でも亜鉛輸送系は水晶体成長過程に重要な役割を果たしていることが推察される。さらに、正常及び遺伝性白内障UPLラット水晶体における、細胞内カルシウム量調節に重要な細胞膜カルシウムATPase、PMCA、亜鉛結合蛋白質メタロチオネインMT、亜鉛輸送蛋白質ZnT1の発現を逆転写PCR法及び免疫組織染色法により検討したところ、正常及び白内障ラット水晶体の両者にはPMCA1及びMT-I/IIが発現していた。
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