本研究は、実験モデル動物を対象に抗腫瘍薬の至適投薬タイミングの設定のための血清中因子を同定することを目的しており、これまでに、数種類の増殖因子の血清中濃度に日周リズムが認められることが明らかになった。また、これら因子の中には腫瘍による血管新生過程にも深く関与するものも含まれていたことから、これら日周リズムを示す増殖因子にはがん細胞に対して直接的な増殖促進作用を示すもののみならず、周辺組織に対し腫瘍の増殖を助長するような働きを担っている因子も含まれることが明らかになった。 これら増殖因子の中で血小板由来増殖因子(PDGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)は、血清中のみならず腫瘍組織内においても24時間周期のリズミカルな発現をし、さらに、腫瘍組織内におけるmRNAの発現にも明瞭な日周リズムが認められることから、本増殖因子の発現リズムは転写レベルで制御されている可能性が示唆された。 また、様々な生体機能の日周リズムに伴い、細胞の増殖能は一日の中の特定の時間帯に亢進するが、本研究において腫瘍組織でのがん細胞の増殖能は正常細胞とは異なる独自のリズムパターンを示すことが明らかになった。がん細胞の増殖リズムは、同定した本増殖因子の発現リズムと非常に高い相関性を示すことから、本因子ががん細胞の増殖リズムマーカーとなる可能性は非常に高いと思われる。実際、血清中のVEGF濃度のリズムを指標に血管新生阻害薬の抗腫瘍効果に及ぼす投与タイミングについて検討を行ったところ、VEGF発現量が増大する時間帯に血管新生阻害薬を投与することで、より高い抗腫瘍効果が得られることが明らかになった。今後、実際の患者を対象とした検討が必要ではあるが、これまでに得られた成果は、抗腫瘍薬の時間薬物療法の実用化へ向けた基盤を成すものと考える。
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