健診が普及した今日、慢性骨髄性白血病(CML)や骨髄異形成症候群(MDS)といった無症状かつ緩徐に発症する造血器腫瘍のスクリーニングも比較的容易になった。しかし、確定診断のための骨髄穿刺は少なからず患者に疼痛を与えるため、骨髄穿刺の時期は、主治医の経験や考えによっても異なる。これまでの検討で、CMLなどの幹細胞疾患では、末梢血の好中球を用いたFISH法でも十分評価に耐えることが分かってきた。当院では末梢血検査の依頼があった塗抹標本は最低過去10年分保管されており、過去の塗抹標本に直接FISHする手法を収得できた。そこで、当院においてCML、MDSの診断がすでに分かっており染色体異常が明らかで、かつ過去に当院で血液検査を施行している症例において、患者の同意の元に、過去の末梢血塗抹標本にFISHを行い疾患特異的遺伝子異常の発症時期の検討を行った。CMLのうち慢性期で発症した症例や移植後慢性期で再発した症例では、末梢血の異常が軽微な時期でも既にbcr-ablの異常が成熟末梢血好中球上に認められることがわかった。一方、急性転化で発症もしくは再発した症例は、それまでの経過中、末梢血好中球のbcr-ablの異常割合は少ないか、または全く異常を認めない症例も存在し、きわめて短期間での発症、もしくは増悪したことが推測された。また、MDSも同様にMDSとしての発症前の、軽微な末梢血以上の時点で既に染色体(遺伝子)異常を持っていることがわかった。また、急性白血病として発症した患者の中にもMDSとしての時期が確認できた症例も存在した。MDSでは、末梢血の軽微な異常に対して、どの遺伝子異常をターゲットに早期診断を行うべきか判断するのは難しいが、CMLではbcr-ablをターゲットにより早期の診断や治療成績を改善する可能性が示唆された。
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