研究概要 |
本邦では医療事故の発生件数に関する正確な集計が行われていないが,朝日新聞Digital News Archivesで1999年〜2001年で「医療事故」を検索した結果,1994年から2001年の間に起こった86件の医療事故が報道されていた.看護学領域では1999年の横浜市立大学の医療事故以降顕著に医療事故関連の文献が増加しているが,看護教育分野での研究はごくわずかであり,看護学基礎教育分野での原著論文は見られない(医学中央雑誌Web版での検索). 主に心理学領域のヒューマンエラーに関する文献検討からは,医療事故を防止するために,患者に対する説明・医療職種間での情報交換・謝罪・集団特性など幅広い内容を含むコミュニケーションの知識と技術,セルフモニタリングの技術などの必要性が示された.医療事故防止教育内容の抽出のため,新聞記事内容を提示して行った看護教員に対するアンケートからは,医療事故に直接結びつく基礎看護技術,薬理学などのほか,専門職としての責任感の醸成も含めた倫理学,法学,看護管理学など,従来の専門科目・専門基礎科目が挙げられた.また,看護教員と看護師によるグループディスカッションでは,教育方法論としての臨地実習について,臨床の現実に近い実習計画とし,臨場感溢れる体験をさせることの重要性について話し合われた.さらに医療事故防止の科目や単元を設ける事が望ましいことで意見が一致したが,本邦の看護基礎教育に関する法規上「安全」は明文化されていないため,現状では安全は各科目・単元の中で個々の教育施設や教師の教育・授業計画や認識にまかされている.法規に則った現行カリキュラムの中で医療事故防止を教科(授業・単元)目標とする授業の設定は難しいと考えられた. 次年度は,現実に実施されている医療事故防止教育の実態把握のため,全国規模の質問紙調査を行う.
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