臨床実習前後の看護学生、及び学生時から卒後1年目の看護職における、職業上の法的責任認識の変化を2年間の縦断調査により明らかにこすることを研究目的とした。A県B大学看護学部に在籍する3・4年生に、平成13年と14年の10〜11月に2度の自記式質問紙調査を実施した(3年のみ実習の中間点にも実施。初回配布数は3年115名、4年107名で、各回答をマッチング後の最終有効回答は3年50名(回収率43.5%)、4年43名(同40.2%)であった。分析は対応のあるt検定、反復測定分散分析等を行った(有意水準<.05)。結果旧3年生については、実習前・中・後の経時変化で、実際の医療事故事例を用いた質問項目からなる「実際的な法的責任判断が低下し、引責志向性尺度の「看護の職責自覚」が上昇した。これは、自由記載欄の『事例において専門知識がある者として責任をとらざるを得ないという考えと自分は責任を逃れたいという人間の弱い部分とが葛藤した』『医療事故が他人事ではないと実習を通じて感じた』との意見が示すように、実習を経験して看護師としての使命の重大さを自覚し理想論としての責任認識は強まったものの、一方で自分にも起こりえる事故の現実性・恐怖を意識したため、事故事例に基づいて下す法的責任判断は低下したと考えられる。これは理想と現実の意識が乖離しやすい学生の特徴と考えられ、学生の中で実習経験を法的責任認識の向上にうまく転換するための教育介入の必要性が示唆された。旧4年生については、「実際的な法的責任判断」にのみ低下がみられた。これも上述と同種の理由が考えられるが、この点は今後の縦断調査や面接調査により、原因と介入策について検討を加えたい。事故への関心、学習意欲等の要因による責任認識の変化への交互作用効果を示す要因はなかった。最終的な標本数の少なさによる分析の限界もあり、今後の課題としたい。
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