看護現象の科学的探求を推進するため、近年脚光を浴びている複雑性の科学に関する諸理論や概念を検討し、看護現象固有の複雑さを明確にすることが本研究の目的である。本年度は、臨床において看護婦が困難を感じる場面に関して調査を実施し、看護現象の複雑さについて分析することを課題とした。 都内の一総合病院でフィールドワークを実施し、様々な間題を有する患者や家族に関するカンファレンスに出席したり、看護師に対応に苦慮する場面についてインタビューを行ったりしている。データ収集及びデータ分析は現在引き続き実施しているところである。 分析結果からは、看護師にとって困難と感じる看護場面は、病や療養の行方についての患者と家族、看護師を含む医療関係者の思いが交差して、満たされなかったり、噛み合わなかったりする場面であることが明らかになった。患者の病や療養の行方についていだく思いは、患者、家族、看護師によって異なり、それぞれのもつ知識や過去の経験に強く彩られている。事態は必ずしもすべての人が満足しうるような結末へと移行するとは限らない。そこでのコミュニケーションは、満足し得ない結果について隠匿したまま進められたり、また対決しながらもその結果を受け入れる方向で進められていた。 来年度はさらにデータ収集及びデータ分析をすすめ、分析結果を複雑性の科学に関する諸理論や概念との関連で検討し、看護現象固有の複雑さを明確にする予定である。
|