本研究の目的は、高齢者が豊かで生き生きとした生活を送るために必要な記憶力の維持と増進とに焦点を当て、高齢者の記憶認知に関する具体的知識の蓄積と、基本的な知識基盤をベースとしたトレーニング・プログラムの提供を行っていくことである。平成13年度は、平成9年度から行っている調査をもとに、老人保健施設入所者とデイケア利用者のメタ記憶と抑うつ感との関係を明らかにした。その結果、日々の生活の中でどの程度頻繁に記憶力が必要とされるか、また、自らの記憶力を比較する対象が誰であるかが、高齢者自身の記憶に対する認識に大きな影響を与えていることが明らかになった。さらに、高齢者の記憶を維持増進して行くためには、高齢者が抑うつ感を高めるような要因を軽減し、ポジティブな主観的評価を下せる環境が重要であること、また、漠然とした記憶に対する思い込み、不安などから開放され、正確な知識と方策とを知ることが、ポジティブに記憶の維持と増進とに向かう有効な手段となることが予測された。こうした結果に基づき、平成14年度からはじめる高齢者を対象とした「物忘れ予防教室」の準備が具体的に進められている。このプログラムでは、高齢者が記憶に関する正しい知識を持ち、日常の生活で有用な記憶の方策を学ぶことにより、プログラム受講前と後の日常生活において、自らの記憶に対する認識に違いが生じるであろうことを予測する。プログラムの前後において、自らの記憶に対する認識、記憶の失敗経験、もちいている記憶の方策をはじめとし、抑うつ感、健康感、記憶の自己効力感を測定し、客観的指標として認知機能評価が行われる予定である。
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