本研究の目的は骨格筋損傷時の筋小胞体のCa^<2+>調節能力の変化を観察し、骨格筋損傷に果たす筋小胞体の役割について明らかにすることである。 本年度は塩酸ブピバカイン(BPVC)を用いて薬理的に骨格筋を損傷させた際に、筋小胞体Ca^<2+>-ATPase活性を測定することによりCa^<2+>-ATPaseタンパクの評価を行い、さらにCa^<2+>イオノフォアを用いて筋小胞体膜の性質の変化について調べた。 方法:実験はWistar系の雄ラットを用いた。片脚の前脛骨筋にBPVCを注入し、反対脚は対照脚とした。BPVC注入24時間後に前脛骨筋を摘出し、ヘマトキシリンエオジン染色およびCa^<2+>-ATPase活性の測定を行った。筋小胞体膜の評価はCa^<2+>イオノフォアA232187を用いて膜の完全性を調べた。筋小胞体の膜が完全な状態であれば、Ca^<2+>-ATPase活性を測定する際イオノフォアを添加すると、添加しないときと比べて活性値が1.5〜2倍増加する。何らかの原因で膜の完全性が損なわれていれば、活性値の増加が小さくなる。 結果と考察:BPVC注入24時間後、筋は著しい損傷を引き起こし、炎症性細胞の浸潤が観察された。筋小胞体のCa^<2+>-ATPase活性はBPVC注入により62%低下した。イオノフォアA23187添加時のCa^<2+>-ATPase活性増加の割合は、BPVC注入筋において低下した。これらの結果から、BPVC注入は、筋小胞体のCa^<2+>-ATPaseタンパクの機能低下と筋小胞体膜の性質の変化の両方を引き起こすことが示唆された。この機能低下は、細胞内のCa^<2+>濃度を増加させCa^<2+>依存性のタンパク分解系を活性化させる可能性があり、筋損傷の際に筋小胞体の機能変化が大きく関与している可能性を示唆するものである。
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