本年度は、ヒト生体の腱組織がMechanical stressとMetabolic stressのいずれの要因が関係しているのかについて検討した。9名の被検者に膝角度50°(完全伸展位を0°とする)と100°でのアイソメトリックトレーニングを実施させた(左右脚はランダムにふりわけた)。トレーニング内容は、70%MVCで15秒間を6セット、4回/週の頻度で12週間とした。身体外部から観察されるトレーニング量(関節トルク×収縮時間)は、左右脚で同一であった。しかし、関節角度によりモーメントアーム長(関節回転中心から力発揮方向までの距離)が異なるため、同じ関節トルクではあるが、100°(大腿四頭筋の筋長が長い)での筋張力が50°(大腿四頭筋の筋長が短い)よりも大きくなる。つまり、100°トレーニング脚の方が50°トレーニング脚よりもMechanical stressが大きいと考えられる。12週間のトレーニングの結果、筋体積の増加率はどちらのトレーニング脚ともに11%前後の増加がみられたものの、両トレーニング脚間に有意な差は認められなかった。しかし、腱組織のステイッフネスは、100°トレーニング脚では有意に増加したものの、50°トレーニング脚では有意な変化は認められなかった。同様に、腱組織の最大伸張量についても、100°トレーニング脚では有意に減少したが、50°トレーニング脚では変化がみられなかった。つまり、Mechanical stressの高かった100°トレーニング脚についてのみ腱組織の特性が変化を示した。本研究の結果、筋肥大にはMechanical stressとMetabolic stressの両方が関与しているが、腱組織には前者のみが関与している可能性が示唆された。この点に関しては、血流制限下でのトレーニング実験を実施し、さらに詳細に検討を加える予定である。さらに、より実際に行われているトレーニング様式に近いバリステイック運動(プライオメトリックス)などについて、急性及び慢性の影響を検討する予定である(急性の変化については実験が終了し、現在はデータ分析中)。
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