研究概要 |
本研究では高強度運動後の筋線維と毛細血管の経時的変化を調べ,毛細血管が筋線維の損傷や回復にどのように影響しているのかについて検討した.本実験では対象としてWistar系雄ラット13週齢を用いた.ラット用に開発した運動負荷装置を用いて,電気刺激によるエキセントリック運動を右後肢に300回負荷した.運動1, 3, 7日後に灌流固定法により筋を固定し,運動の主働筋である腓腹筋を摘出した.腓腹筋において,速筋線維の割合が高い表層部と遅筋線維の割合が高い深層部を分析した.固定した筋組織はエポキシ樹脂に包埋し,ミクロトームにて厚さ1μmにスライスした.トルイジンブルー染色を施し,光学顕微鏡にて形態計測をおこなった.得られた結果は以下の通りである. 1)本研究の運動プロトコルによって高強度のエキセントリック運動1, 3, 7日後の運動脚に筋線維の損傷が認められた.1日後では過収縮による膨張が,3日後では白血球の浸潤が,7日後では再生過程にあり小さな中心核が存在する筋線維が多く認められた.損傷した筋線維の割合は表層部,深層部それぞれ1日後では77.1±27.4%, 31.6±10.4%, 3日後では86.8±13.0%, 53.9±16.2%, 7日後では58.9±21.4%, 29.3±10.6%であった. 2)運動1, 3, 7日後の毛細血管形態には閉塞,内皮細胞の崩壊などは見られず,その絶対数にも変化がなかった.毛細血管内腔は表層部では1日後,3日後,深層部では3日後に有意な増加が認められた.また,運動1日後では両部位で蛇行の程度が大きいことが認められた. 以上の結果から,高強度運動によって毛細血管の閉塞、崩壊は認められず、微小循環機能低下が筋損傷の主要因になっていないことが示唆された.また,損傷した筋での毛細血管の内腔および蛇行程度の変化は、筋の血流量を確保し筋損傷の回復促進に貢献している可能性があると考えられる.
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