これまで、フィードバック情報が運動スキルの学習を促進する事態において、フィードバック情報に外乱として加えられる偏向の影響は検討されていない。そこで本研究においては、誤情報フィードバックが運動スキルの習得、保持、転移に及ぼす影響を検討することを目的とした。本年度の実験においては、誤情報として与えるフィードバック情報に対する被験者の気づきを調べるために、誤情報が正情報に混在して与えられることを教示しない実験群を設け、正情報のみが与えられる統制群との比較を行った。実験課題は、上腕の内旋・外旋運動によって目標とする時間的・空間的運動パターンを再生することであった。上腕の内旋・外旋角度測定器からの信号をAD変換器を通しコンピュータに取り込み、各試行後にはコンピュータ・モニター上に、目標波形と被験者産出波形をフィードバック情報として呈示した。誤情報群においては、全習得試行の20%に相当する試行数をランダムに選び、それらの試行後に被験者が実際に産出した波形の振幅を1.3倍に増幅した波形を呈示した。誤情報群において振幅の操作に気づいた被験者が10%以内であったことから、1.3倍という増幅率と20%という混在率が、フィードバック情報に偏向が加えられたことに対する被験報の気づきを抑制したと言え、誤情報に対する潜在的な情報処理を検討するために妥当な条件であると考えられた。そして、誤情報の存在に気づかなかった実験群の被験者と統制群を比較した結果、保持テストにおいて実験群が有意に少ないRMSエラーを示した。したがって、誤情報の潜在的な情報処理が運動スキルの学習を導く可能性があることが示唆された。
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