本年度の研究は、研究計画の通り、チュン氏の『イギリスのニュー・レフト-カルチュラル・スタディーズの源流』に学びつつ、また本年度にロンドンで刊行されたT.G. AshplantおよびGerry Smith編Explorations in Cultural History (2001)の成果を意識し、資料整理を進めながら、研究成果の一部を公表、国際学会発表を行った。 研究論文は「スポーツ叙述の独立を支える思想基盤に関する歴史的考察-イギリス急進主義-」と題し、イギリス19世紀初頭のスポーツ新聞に見られる急進主義的知識文化の影響について論じた。その中で、この時代の急進主義的知識文化の代表的創出者とされてきたW・コベットによる農村の文化的自立とスポーツ擁護の文脈を解説した。国際学会では、"The Nature in Blood Sports in Pre-Victorian Britain"と題し、同コベットによるブラッド・スポーツの記述を取り上げ、彼のスポーツ論について示した。後にコベットについて研究を始めるニュー・レフトの一人、G.D.H.Coleは、こうしたコベットのスポーツ論を意識し、杜会主義と広義の意味での文化主義との連帯の必要性の根拠を歴史研究から導こうとしていたのではないかと考えられる。近年の文化史研究は、19世紀の前半にまで遡り、こうした文化と民衆の自立との関係を明らかにしようとしつつある。先のAshplantとSmithによる編著書は、こうした傾向を補完する上で示唆的であり、次年度の研究に向けて発展的視角を提示している。また、新聞資料のヴィジュアル化のために、解像度の高いスキャナーやそれに対応できるコンピューターを用い、新聞や映像史料をスライド化できたことは、本テーマの研究活動の明示化に役立ち、教育活動にも生かされた。
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