目的 現在、生涯スポーツを標語にしたスポーツ振興策が進む中、登山ブームが中高年層におこっている。登山が他のスポーツと大きく異なる点は低い酸素分圧の環境下で運動するため、体内の酸素分圧、体液貯留がみられ、急性高山病の症状が時としてみられる。従来から低酸素環境下において呼気終末に陽圧を負荷する呼吸法(終末呼気陽圧呼吸;以下口すぼめ呼吸とする)を行なうと体内の酸素不足が改善されると報告されている。しかし、先行研究は換気量をコントロールせずに行なったために換気量の増加により動脈血酸素飽和度が上昇した可能性を否定できない。本研究では運動中の吸気量をコントロールしながら実験を遂行した。 方法 被検者は健常な男性6名であった。被検者は10分間の安静の後、トレッドミル上を2分間歩行し、引き続き12%酸素濃度混合ガスを吸入しながら5分間歩行した(試行1)。試行1終了後20分間の休息を挟んで同様な手順により試行2を行なった。コントロール試行と口すぼめ呼吸試行はランダムな順序により試行1または2に行なった。口すぼめ呼吸は口輪筋より筋電図を導出し、パソコン上に波形を表示させ被検者に確認させがら口すぼめを行なってもらった。吸気量は1呼吸ごとに分析し、パソコンのモニター上に吸気量の数値を出力し被検者にフィードバックし、吸気量がコントロール実験と口すぼめ呼吸の間に大きな差がみられないよう意識的に調節しながら呼吸をしてもらった。測定項目:吸気量、呼気量、呼吸数、1回吸気量、1回呼気量、吸気時間、呼気時間、動脈血酸素飽和度、筋電図 結果と考察 口すぼめ呼吸が正しく行なわれたかどうかを口輪筋より導出した筋電図を積分し、コントロール実験と比較すると口すぼめ呼吸のほうが有意に高値を示した。また口すぼめ呼吸を行なったことにより吸気時間、呼気時間、呼吸時間は有意に長くなった。呼吸数は逆に有意に少なくなった。これらの結果から口すぼめ呼吸が正しく行なわれていたことが示唆された。口すぼめ呼吸の吸気量はコントロール実験と比較して低値を示し、呼気量には統計的有意差はみられなかった。低酸素吸入による動脈血酸素飽和度の低下の度合いには有意な差は認められなかった。この原因にはコントロール実験と比較して呼吸数の低下に伴う吸気量の減少が関与しているかもしれない。
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