スポーツ史の文脈でいえば、民衆の娯楽・スポーツはつねに何らかの規制や禁圧の対象となってきた経緯があるが、イギリスにおけるボクシングの近代化過程に着目すると、前近代的なスポーツ活動の合理化に関し、イギリス刑法がきわめて具体的な影響を及ぼしていたことが伺える。そこでは制定法に加え、判例法が大きな意味をもっていた。 中世のイギリスでは、市民による軍事力ならびに労働力の保全のため、法律によって弓術奨励がはかられるとともに、テニスやボーリングといった賭事をともなう民衆娯楽は不法な遊戯と見なされていた。このことが示すように、スポーツ活動そのものを対象とする各種スポーツ立法が成立するのは20世紀に入ってからであり、それ以前には、一見スポーツとは関わりをもたないかのように思われる多領域にまたがる制定法による規制がなされていた。1894年に出版されたChitty's Statutesによれば、イギリスにおいて、中世から近世にかけて娯楽・スポーツを規制したと考えられるのは、救貧法、安息日遵守法、狩猟法、賭事法などであり、18世紀から19世紀にかけては、そこに動物虐待防止法、定期市規制法、興行法、鉄道統制法、休日法などが加わることになる。 来年度については、これらの制定法ならびに判例法をさらに読み解くとともに、個々のスポーツ事象に照らして、刑法の果たした役割をより詳しく考察する予定である。
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