研究概要 |
本年度は,山形県鳥海山南斜面亜高山帯の複数の残雪凹地(通称心字雪雪渓とその周辺)を集中調査地の一つに選定した.研究着手後ただちにカラー空中写真判読と現地予備調査を行い,微地形分類図や相観植生図を作成した.これらを基礎資料として,野外での土壌掘削調査や地形測量,放射炭素年代測定・火山灰(テフラ)分析試料の採取を年度前半に複数回行った.年度後半には,これらの資・試料の室内解析を重点的に実施した.とくに,土壌中から採取した2層の火山灰に含まれる火山ガラスの屈折率測定を行い,それらが十和田a火山灰(西暦915年)と十和田中掫火山灰(約6300年前)であることを新たにつきとめた.また埋没土壌の炭素14年代測定を行った.以上の結果から,他の日本海側多雪山地と同様に,鳥海山でも完新世後半に気候寒冷化に起因する砂礫斜面(おもに残雪性)の拡大が生じ,それによって融雪流水路の流路幅が最大数十メートル拡大したことが判明した.その時代性は今後も追求する余地があるが,現時点では5000〜4000年前だった可能性が高いことが指摘できる.また十和田a火山灰の降下前後にも土壌生成環境が変化した可能性があり,これは世界的な気候温暖期として知られる「中世温暖期」に因むものとの見通しを得た.なお,鳥海山の調査と平行して,申請者が長年調査を進めてきた山形県月山亜高山帯の残雪凹地でも地形測量を行い,今後の研究展開に必要な補備的データを得た.また三国山地平標山の亜高山性泥炭土壌の植物珪酸体(プラントオパール)分析をかねてから進めてきたが,それについて最終的な成果のとりまとめを本年度に行った.この結果,完新世後半には気候変化に起因する顕著なササ草原・雪田草原の景観変化があったことが明らかになった.
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