研究概要 |
平成13年度には,三国山地平標山を例に多雪山岳の土壌に含まれる植物珪酸体(プラントオパール)による古植生・古環境復元の試験的研究を行い,グローバルチェンジに連動した完新世の環境変動史の解明に成功するなど一定の成果と良好な研究見通しを得ていた.そこで,平成14年度はこの手法を更に検証し,有効性のあるものとして確立させるため,これまで集中的な調査を行ってきた山形県鳥海山南斜面亜高山帯の残雪凹地(心字雪雪渓)において土壌試料の採取と地形調査を行った.採取試料の大半は分析途上にあるため,現段階では具体的な結論を得るに至っていない.しかし完新世中期の気候冷涼化や同後期の温暖化などに起因すると考えられる雪田植物・ササ群落の拡大縮小過程を示唆した植物珪酸体組成の変化が検出されつつある.この他,今年度は山形県月山東斜面の残雪凹地(大雪城雪渓)において詳細な完新世地形面マッピングを行い,前年度までの資料と併せて論文公表を可能とした.また長野県白馬岳北斜面の残雪凹地(長池平)でも地形・土壌断面の詳細な調査や炭素14法年代測定を行い,鳥海山や月山などで知られてきたものと同類の景観形成史が成立してきたことを確認した.一方,白馬岳周辺の残雪凹地の一部には地すべり変動成のものがあることも確かめられ,グローバルな環境変動とリンクしない景観形成史を経てきたものがあることが判明した.これは従来指摘されていなかったもので,今後も研究を継続する予定である.さらに,多雪山地の完新世環境変動史を論考する上で参考となる寡雪山地の環境変遷について,赤石山脈仙丈ヶ岳の化石岩石氷河を例に考察し,論文発表した.以上の成果の一部は中国で開催された地形学国際会議においても発表し,日本の多雪山地研究の紹介を行うとともに,現地研究者との情報・意見交換にも役立てた.
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