【目的】心拍変動は従来、呼吸や循環器等の自律神経機能の評価として用いられてきたが、本研究では高齢者と若年者を対象にして、心拍変動が温熱的負担の評価になりえるかについて検討を行った。【方法】実験は25℃、50%RHの常温室、35℃、50%RHの暑熱曝露室の2室で行った。被験者は男子とし高齢者12名、若年者12名である。実験開始後30分間は常温室に、その後暑熱曝露室に60分間滞在した後、常温室に戻った。心拍数はホルター心拍計を用い、心拍変動のスペクトル分析によりLF(低周波成分;0.039-0.148Hz)、HF(高周波成分;0.148-0.398Hz)を求めた。その他に直腸温、皮膚温、体重減少量、主観申告を測定した。【結果】HFは40〜50分の値以外はLFと同様に若年者の方が有意に高い値を示した。常温室では若年者のHFの値が高齢者と比較して高い傾向を示したが、暑熱曝露室ではHFが減少し、LF/HFが高くなり交感神経が優位となった。高齢者のHFは大きな変化がなく、LF/HFは暑熱曝露中に若年者よりも遅れて上昇することが示された。直腸温は暑熱曝露終了時、若年者は0.07℃の上昇、高齢者は0.20℃の上昇を示し有意な差が認められた。体重減少量は、高齢者は140gに対し若年者は180gとなり有意な差を示した。暑熱曝露時の快適感は、若年者が高齢者に比べて不快とする申告をした。全身及び局所温冷感も若年者がより暑いとする申告をした。【結論】環境が35℃、50%RHの暑熱曝露では、高齢者の体温は上昇するが、自律神経バランスの適応が遅れ、発汗量が少ないためにうつ熱状態になりやすい。さらに高齢者は温度感受性も低下し、暑さへの適応行動は若年者よりも遅れる。今後、さらに例数を増やし、心拍変動と暑熱曝露時の体温との関係を明らかにして心拍変動が熱中症予防の指標になりえるかについて検討を行う必要がある。
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