メカブはワカメの成実葉で粘りに富むことが特徴である。メカブに水を加えて撹拌すると得られる粘り(メカブ粘性物質)には難消化性多糖のアルギン酸が溶出して、その粘性に関与している。難消化性多糖の生理作用には粘性が大きな役割を果たしているとされることから、摂取されたメカブ粘性物質の粘度が実際の作用部位である消化管内でどのように変化するのか、人工消化実験と腸内細菌を用いたバッチ培養により推定した。 1 人工消化実験 小腸内における粘度変化を調べるため、膵液酵素を用いて人工消化実験を行った。粘度変化を測定するとともに、還元糖量ならびに遊離アミノ酸量を定量し、膵液酵素によって分解される粘性物質中の糖質とタンパク質の量を調べた。その結果、反応液の粘度に有意な変化は認められなかったが、反応液中の還元糖量は有意(p<0.01)に増加した。遊離アミノ酸量には有意差は認められず、粘性物質中のタンパク質は分解されていないことが示された。これらの結果から、メカブ粘性物質はその粘度の高低にかかわらず、膵液酵素によって糖質の一部が分解されるものの粘度は低下せず、もとの粘度を保ちながら小腸内を通過することが推定された。 2 腸内細菌を用いたバッチ培養 大腸内における粘度変化を調べるため、ブタの盲腸内容物から調製した混合微生物を使ったバッチ培養を行った。メカブ粘性物質とメカブよりアルカリ抽出したアルギン酸ナトリウムを基質とし、粘性物質の主要成分と考えられもアルギン酸が粘性物質の大腸内発酵に与える影響を調べた。その結果、粘性物質を基質とした場合では、培養液の粘度ならびに全糖量は培養前後で有意差は認められなかったが、メカブ抽出アルギン酸ナトリムを基質とした場合では、培養後に有意(p<0.01)な粘度の低下が認められた。全糖量も有意(p<0.01)に減少しており、腸内細菌によってアルギン酸が分解されて全糖が減少し、粘度が低下したと考えられる。これらの結果から、メカブ粘性物質は腸内細菌による分解を受けず、大腸内においても粘度を保っていることが推定された。しかし、アルギン酸は腸内細菌によって分解されて粘度が低下したことから、メカブ粘性物質の大腸内発酵基質としての性状には、主要成分であるアルギン酸の性状ではなく、他の成分あるいは粘性物質の物理的な高次構造などが影響していることが示唆された。
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