昨年度までの検討で得られた基礎的知見を踏まえ、本年度はパルス電界殺菌処理法の有する特徴を食品化学的、官能的な視点から調べた。試料には鋭敏な品質を有する温州ミカンストレート果実飲料を使用した。試料のパルス電界処理条件は昨年までの検討から35kV/cm、100J/ml、処理時間20秒とした。比較のため、95℃達温区、チューブラー処理区についても調べた。まず、pH、酸度、可溶性固形分等の一般成分および色調について調べた。その結果、色調で各処理区に大きな相違が認められた。すなわち、95℃達温区、チューブラー処理区では未処理区に比べL値が15%程度も大きく低下したのに比べ、パルス電界殺菌処理区では未処理区とほぼ同じ結果を示し、果汁の色調をよく保存していることが明らかとなった。次に、香りについて、内標を用いた固相マイクロ抽出法で各処理区のヘッドスペースガスを採取し、GC分析に供した。その結果、いずれの処理区からも35種類の香気成分が検出・同定可能であった。しかし、その強度には大きな違いが認められ、面積積算値の比較では未処理区を100とした場合、パルス電界殺菌処理区、チューブラー処理区、95℃達温区ではそれぞれ83、65、63となり、パルス電界殺菌処理区が他の処理区に比べストレート果汁の強い香気を良く保持していることが明らかとなった。これらの結果を踏まえ、飲料工場勤務者及び学生をパネルに官能検査(n=15)を行った。未処理区を対照とした5段階尺度法で、香り、味、色調、新鮮さ、総合評価の5項目について調査した。その結果、総合評価では好ましい順にパルス電界殺菌処理区、チューブラー処理区、95℃達温区となり、香りや新鮮さ、味の項目でも同様の傾向が認められ、官能的にも従来の殺菌法に比べ品質の変化が少ないことが明かとなった。
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