正常な乳腺の発達過程を、光学顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を用いて、超微形態学的に検索を行った。さらに、母親の血液中に含まれる高分子物質が母乳中に移行するかについて、高分子物質のトレーサーであるhorseradish peroxidase(HRP)を用いて、細胞化学的に検索した。その結果、休止期の乳腺では、脂肪組織に混じってわずかに乳腺小葉、乳管が観察されたが、ほとんど発達は見られなかった。妊娠後期では、脂肪組織の間に乳腺小葉、乳管が多数観察され、小葉内には腺腔の認められる腺胞が存在した。授乳期では、乳腺の発達が見られたが、授乳日数が増加するにつれ、発達した腺胞が増加し、乳汁成分で拡大した腺腔が認められた。このことから、授乳日数の増加と共に、より大量の乳汁が分泌される可能性が示唆された。離乳期では、乳腺上皮細胞がアポトーシスを起こしている像が観察された。HRPを血管内に投与し、母乳中に移行するか検索を行った結果、休止期では、腺胞がほとんど観察されず、トレーサーも見られなかった。妊娠期においては、出産が近づくにつれ、発達した腺胞が観察され、乳腺上皮細胞内に反応産物が観察されたが、腺腔内には認められなかった。授乳期では、HRPは血管内から乳腺上皮細胞を通過して、腺腔内の母乳成分に混じって観察された。離乳期においても、同様に血管から腺腔内への通過が観察された。これらの結果から、授乳期および離乳期においては、母体内の高分子物質は、乳腺上皮細胞を通過し、母乳中に混入する可能性が示唆された。また、乳腺全体で見ると、出産後の日数が経過するにつれて、活発に乳汁を分泌している発達した腺胞が増加したことから、授乳日数の増加と共に、より多くの高分子物質が母乳中に混入し、新生児に摂取される可能性が高くなると思われる。
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