本年度の研究では、当該課題に関する基礎文献及び第次資料の収集・分析を作業の中心とした。すなわち、関東及び東北圏の各大学・関係機関において、戦前期修身科教育及び公民科教育に関する先行諸研究にあたる著書・論文等を参照・複写するとともに、戦前期の修身公民教育論者の著書・論文の参照と複写、修身科・公民科の教科書、実際に使用されていたとされる公民読本等の参照・複写という基礎的作業を行った。そのうちの、公民教育史研究に関する先行諸研究の書誌を網羅的にまとめたもの(論文1本)、および、昭和戦前期の中学校公民教科書における「国際協同」記述について検討したもの(学会発表1本、発表題目「昭和戦前期中学校公民科教科書における『国際協同』記述の変容について」、日本社会科教育学会第51回全国研究大会自由研究発表、平成13年9月22日、於:上越教育大学)が、その成果の一部である。前者は、従来の戦前日本公民教育史研究の意義と課題を明らかにし、未だ実践史的研究の乏しいことを指摘する意図をもつものである。後者は、昭和戦前期の中学校公民教科書での「国際協同」についての記述を網羅的・実証的に示したものであり、とりわけ昭和10年代の教科書記述内容の変容を明らかにしており、近く学術論文として報告する予定である。なお現在、明治後期において実際に各地方において使用されていたとされる公民読本における国際関係記述を分析した論文1本を、学会機関誌に投稿中である。 また本年度においては、各県市町村教育委員会・小・中学校、関係機関へ出向いての聞き取りを行った。だが、実際の尋常・高等小学校・中等学校における修身科・公民科カリキュラムの掘り起こしは、第一次資料の保存状況が予想を超えて良好でなく、次年度は、対象地域の再検討を念頭に置きつつ、引き続き、特定の地域・学校における、戦前、とりわけ大正期・昭和初期の公民教育実践の実態の一端を明らかにするべく、各県市町村教育委員会・小中学校等での情報収集を更に重ね、実際構想され使用されたカリキュラム案の第一次資料の発掘・検討を行う。
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