本研究の目的は、第二言語習得における聴解力の特性をこれまで見過ごされていた新しい観点から捉えなおし、言語習得理論における学習者へのフィードバック、聴解と発話の随伴活動の効果を、実証的に検証し、その言語習得における重要性と可能性を明確化することにある。そこで、これまでの聴解力研究と位置づけられていた領域を超えて、より広い範囲で聴解力と発話力の相乗効果が存在するという見通しのもとに、平成13年度は、学習者の聴解ストラテジー調査・シャドーイング実践(文字を見ずに音声から数秒遅らせながら発話を繰り返す)を中心として、聴解力向上の可能性を考察した。検討課題は、聴解ストラテジー項目の収集・分析、聴解ストラテジー利用と客観聴解力の関連である。その結果、聴解・発話の随伴活動の聴解力への効果、つまり認知科学の作動記憶との関連という観点からも興味深い結果が得られた。そのひとつとして、シャドーイング録音を学習者にフィードバックさせると、音声情報の保持と処理に、相関関係が表れることを指摘した。具体的には(1)大学生にシャドーイング及びそのフィードバック実践に伴い聴解力向上が見られ、(2)シャドーイング実践と学習者の聴解ストラテジー活用との相関、という結果を指摘した。そして、それは認知科学の言語情報処理の観点から説明される可能性があることを示唆した。さらに、この聴解・発話及び音声フィードバックの実践方法は、高等教育のみならず中等教育を含む広範囲での適用可能性を指摘した。
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