外国人が日本語を習得する際、文法・語彙・文字などとともに音声も習得していく。音声は、文字以上に言語の基本的機能であり、文字がない言語はあっても音声がない言語は存在しない。そのような基本的機能である音声だが、日本語教育において、音声教育が系統立てて効率的に行われてきたとは言いがたい。文法や文字(特に漢字)の教育においては、有効な教授法が次々に編み出されており、定番として広く使われるに至った教科書も多く存在するが、音声教育においては、定番となる教科書はおろか、有効な教授法も広く周知されているものは存在しない。この理由は、音声は指導しなくても上手になるという意見や、ある程度通じればいいという意見が多く、有効な指導法確立への努力がおざなりにされてきたためと考える。しかし近年、音声教育見直しの動きが盛んになりつつある。それぞれの教育機関で独自の音声教育に挑戦する、研究成果をもとに教科書開発に取り組むなどの動きが見られる。 本研究では、そのような音声教育研究の流れにのっとり、より有効な音声教育を考えるうえで基礎となる、日本人の日本語音声評価について研究を進める。日本人はどのような音声を自然と感じ、どのような音声を不自然と感じるのか。この疑問を解決すれば、外国人学習者に日本語音声を指導する際、全ての音声項目を網羅的に指導するのではなく、日本人の好評価に結びつきやすい音声項目を重点的に指導することが可能になる。また、学習者が不自然と評価されやすい問題点を持っている場合、その問題点のみを重点的に指導することもできる。音声評価研究は、音声教育への有効なバックアップ役を果たすことができるのである。 そこで、本年度は、外国人学習者の日本語音声に対する、日本人の評価基準を研究するベースとして、日本語音声のどのような音声項目が評価の対象として挙げられるかを研究してきた。不自然さが多く残る外国人学習者の音声を20名の日本人被験者に聞かせ、全体として自然か、不自然か質問した。そして、被験者に、どのような点が特に気になったかを自由記述させた。その結果、12名の被験者が不自然と回答し、7名は「日本語らしくはないが不自然ではない」と回答した。その計19名に気になった点について自由記述させたところ、「ゴツゴツしている」「アクセントが不自然」「言いよどみが多い」「外国人っぽい」などの回答を得た。これらの回答は、評価の対象となる音声項目に直結するものではないが、日本人が外国人学習者の音声を評価する際の自然な反応が含まれており、今後の研究に活かしていきたいと考える。 次のステップとしては、音声分析器CSL(Computerized Speech Lab)で上記の実験に用いた外国人学習者の音声を分析し、さらに様々な要素の組み合わせて合成音声を作成し、それを用いて日本人被験者に評価実験を行っていくことにする。
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