本研究の目的は、日本語の接触場面における第1言語話者の言語使用の諸相を、コミュニケーション・ストラテジー使用の観点から考察することである。今年度は、調査の第一段階として、データの収集および文字化作業を行った。日本語第1言語話者11名・日本語第2言語話者8名に協力を依頼し、調査者の設定したインタビュー・タスクを行ってもらった。現在収集したデータは約12時間に上り、その全てについて文字化作業を終了している。 収集したデータは、コミュニケーションに何らかの問題が生じた際に行われる修復(repair)シークエンスに注目し、現在分析中である。具体的な結果としては、下記の点などがあげられる。 1.修復は、問題源となる発話の産出-修復の開始-実際の修復という3つの段階を経るが、具体的な修復のストラテジーについては、英語を主な分析対象とした先行研究とは、開始の位置や方法の点で、相違も観察できる。 2.修復は、言語のみならず、非言語的・パラ言語的な要素も含め、対話者間の協同作業として遂行される。 3.従来、修復は情報伝達の促進を志向すると考えられていたが、相互行為自体の組織化や、会話参与者のアイデンティティおよび関係性の構築にも機能している。 また比較として、書き言葉におけるコミュニケーション・ストラテジーについても調査を行った。34人の日本語第1言語話者が外国人日本語話者に対して書いた手紙文を分析した結果、言語レベル・相互行為レベルの調整の他、断り方や待遇表現などに関する社会言語レベルの調整が観察された。また、一見すると共通点がないようにも見える調整の有無、あるいは調整方法の選択メカニズムについて、コミュニケーション応化理論(Speech Accommodation Theory)による包括的な説明が可能であることが明らかになった。
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