本研究は、日本語第1言語話者と第2言語話者の接触場面会話において、コミュニケーション・ストラテジーの一つである修復に注目し、修復という言語活動が協働的に構築される過程の一端を明確化したものである。本研究では理論的・方法論的な枠組みとして、協働的構築および会話分析を採用した。これにより、従来の研究においては指示的意味の効果的な伝達という側面に矮小化されるきらいのあった修復を、会話参与者の間主観性を増大させ、相互行為を首尾よく達成させるためのリソースの一つとして位置づけることが可能になった。具体的な知見としては以下のような点があげられる。 1.自己開始修復および他者開始修復を微視的に記述し、何らかの問題をきっかけとする修復開始の方法、および、実際の修復方法を整理・分類した。また修復の達成過程およびそれに影響を与えるコンテクストについて考察した結果、修復のあり方は話者個人の内的な認知過程によってのみ決定されるのではなく、話し手と聞き手の協同作業を通じ、非言語行動や話者間の関係性の保持といった言語外的な要素とも関連しながら達成されていくことが明らかになった。 2.修復の遂行により構築されるコンテクストについて、特に参与者のアイデンティティの問題を中心として考察した結果、修復が参与者の第1言語話者性・第2言語話者性の前景化のみならず、両者の役割関係の転換や第1言語話者・第2言語話者以外のアイデンティティの構築、常識的なカテゴリー付随活動に対する異議申し立てのためにも機能することが示された。 これらの知見は、修復という言語活動が非言語的・パラ言語的要素も含めて巧みにデザインされていること、相互行為という大きなコンテクストに埋め込まれていると同時に、相互行為を達成するためのリソースの一つでもあることを裏付けるものである。
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