研究概要 |
本研究では,離散化された問題を解くために必要となる大規模疎行列の反復解法において,最も中心的な役割を果たしているKrylov部分空間法において,高性能な演算ライブラリを用いた分散共有メモリ型アーキテクチャ上への効率的な並列実装方式を実現することを目的としている.今年度は,並列計算環境として既存設備のSun Microsystems社製Enterprise 10000を用いるとともに,Intel社のXeonプロセッサとギガビットネットワークによりPCクラスタを構築し,以下の成果を得た. まず,Enterprise 10000による予備的な評価では,BLASレベルでの並列化に関して,Level1, 2 BLASについても十分なスケーラビリティが得られることを示した.さらに,これを用いてKrylov部分空間法の一つであるJacobi-Davidson法について,共有メモリ型並列計算機向きのJacobi前処理を適用し,計算時間に関して約2倍の性能向上を得た.BLASレベルでの細粒度な並列化で高い並列化効率を得るためには,扱うベクトルのサイズが十分大きくなければならないため,実験環境での物理メモリ上の制約を考慮すれば,妥当な結果であると考えられる. 一方,クラスタ上での分散共有メモリの実現方式については様々な手法が提案されており,現在評価を行っている段階である.なおMPIを用いた予備的な実験では,ネットワーク性能が計算速度に与える影響が大きく,この点に留意した実装が必要であると考えられる.
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