研究概要 |
情報/符号理論で発展してきた誤り訂正符号の性能評価法であるGallager形式に統計力学で開発された評価法であるレプリカ法を導入した.Gallager形式では誤り訂正符号の復号誤り率の上界を評価する枠組みであるが,その評価の途中でJensenの不等式を用いるため必要以上に控えめな評価を行なっている可能性がある.それに対し,レプリカ法はシステムの大自由度性に着目し,鞍点法を用いて上界を直接評価する.そのため,既存手法よりタイトな評価を与えると期待される.具体的な適用対象として現時点で世界最高レベルの誤り訂正能力を持つ符号族として知られている低密度パリティ検査符号を取り上げ,新しい評価法が既存の評価をどの程度改善するかを調べた.その結果,以下のことが明らかになった. 1.パリティ検査行列の非ゼロ要素数の割合が0(1)程度になる密行列極限では新しい評価法は既存評価法と一致する結果を導く. 2.ただし,実際的時間での復号を可能とする非ゼロ要素数の割合がゼロとなる疎行列の場合には既存評価法よりも楽観的な評価を導く. 結果2.は既存手法ではJensenの不等式によって上界が必要以上に緩和されているのではないか,という当初の予想を裏付けるものである.これらを踏まえて,現在は得られた結果についての数学的厳密性の検証ならびに開発した評価法の他の符号への適用を行なっている.また,次年度の課題である,典型系列解析法へのレプリカ法の導入に関しても準備をはじめている.
|