今年度は、空間中での原子・分子の分布が希薄かつ不均一な状態での高速実装法について研究を行った。分子動力学法の高速化のため、空間を細かく分割して近傍の分子の影響と遠距離の分子の影響を分けて扱う手法が良く用いられるが、空間中での分子の分布が希薄な状態および不均一な状態では、計算負荷の不均衡に加えて最適な分割法を一意に定めることが困難である。これは、本課題で扱う生体分子のシミュレーションでも起こることである。今回は短距離相互作用の働くカーボンクラスターのシミュレーションプログラムでこの問題を検討した。これまでは、分割した小空間(セル)の数だけ繰り返しのある実装法であったため、セルの大きさやセルの数が実行時間に大きく影響した。これを、セルを使用しつつ、各プロセッサ要素が担当する分子の数だけ繰り返しのある実装法にすることで、セルの大きさおよびセルの数への実行時間の依存性を小さくすることを目的とした。性能評価の結果、セルの空間中での分子の分布が希薄かつ不均一な状態において、セルの大きさおよび数が実行時間におよぼす影響を軽減することができた。このことから、相互作用の影響範囲を考慮して、最適なセルの大きさを評価できるものと期待している。さらに、本課題が目的とする生体分子のようなクーロン相互作用の働く分子に対しても、空間を分割して遠距離の分子の影響を近似する計算手法に適用できるものと期待している。 さらに今年度は、研究目的に利用するという条件で無料配付されている既存の生体分子プログラムを、本研究で利用する並列計算機環境に移植した。実行時間の詳細な検討はこれからであるが、このプログラムは完全には並列化されていないため、今後は並列化効率に対する影響の大きな部分の並列化および高速化を検討する。
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