平成14年度の本研究では、主に、研究代表者が提案した高速球面調和関数変換の実装、応用問題への適用、ライブラリルーチンの構築とその公開を行った。 まず、球面調和関数変換を構成する最重要の要素であるルジャンドル陪関数変換の高速変換ルーチンをfortran90で構築した。高速ルジャンドル陪関数変換アルゴリズムはFMMと分割統治法の二重の再帰構造をしているが、これをフラットな積和演算の列に分解・再構成することにより、サブルーチン呼び出しのオーバーヘッドの軽減を実現した。次にこのルーチンを2つの応用プログラムに適用し、高速球面調和関数変換における近似誤差のアプリケーションへの影響について調査を行った。適用したプログラムはWilliamsonらが提案した球面上の浅水方程式の7つの標準テストケースを実装したstswmと、余田教授らが開発した2次元球面上の乱流シミュレーションプログラムである。我々の高速変換はこれらのプログラムにおいて正常に動作し、要求したオーダーの精度で結果を出せるということが確認された。さらに、高速ルジャンドル陪関数変換ルーチンにFLTSSという名前をつけてウェブページで公開した。 また、高速変換の高速性の源であるFMMについて、YarvinとRokhlinによる一般化FMMの前処理アルゴリズムを改善し、大幅に計算量を軽減、また精度も安定かつ容易に制御する手法を提案した。さらにQR法を利用して変換行列を三角化し、これまで用いられていた対角化よりも高い疎行列性を実現した。また、これを球面調和関数変換、多項式内挿、spherical filterなどに適用し、有効性を実証した。
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