本研究は、俗に「ため口」と呼ばれる敬意表現を伴わない仲間内での会話に用いられる発話様式に着目し、「ため口」の処理を通してこれまでの音声処理で軽視されがちであったパラ言語情報を利用する技術の開発を目的としている。平成13年度の研究計画は、大略以下の通り。 1 音声対話システムの仕様設計とタスク設定 2 模擬対話収録と音響分析 3 模擬対話データの言語的分析 このうち、2については「ため口」を使う間柄である大学生5名10組を被験者として、本研究のために設計された「4コマまんが並べ替えタスク」を用いて対話収録を行い、所望の音声データが得られている。また、3については言語的分析に留まらず、パラ言語的情報の分析を試みた。具体的には、アフェクトグリッドと呼ばれる感情記述法を土台にした独自のラベリング法を考案し、感情を専門とする研究者の助けを借りてラベリング作業、および統計的評価を行った。また、1についてはその準備段階として会議室予約をタスクとした音声対話研究用プラットフォームの開発を進めている。しかし、このような事務的タスクにおいても対話管理手法の点で引き続き検討すべき課題が多く残っている。このため、当初の予定であったシステム設計については次年度の研究課題とし、そのかわり平成14年度の研究計画に含まれている ●ため口による音声レスポンス について、韻律制御と声質の観点から先取りして研究を行なった。その結果、自然な対話音声のように速い発話では、基本周波数軌跡などの韻律に関係するパラメータだけでなく、フォルマント周波数軌跡のような声道パラメータも中立化させる必要があることがわかった。
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