研究概要 |
本年度は乳幼児を対象とした行動実験を中心に研究を行った.具体的には,ターゲット対象の遮蔽と回転を伴う物理的事象に対する乳幼児の注視行動の計測・分析を行った.対象とした乳児は月齢6ヶ月〜8ヶ月児で,馴化・脱馴化パラダイムに基づいて物理的に不可能な事象(不可能イベント)と可能な事象(可能イベント)の両者が呈示された.本研究では,従来指標として用いられてきた注視時間に加えて,事象呈示下における乳幼児の視線を計測する手法を確立した. 注視時間と視線計測の両者を統合した分析の結果以下の点が明らかになった. ・事象呈示中に被験児の注視パターンに依存して,注視時間が変化すること. ・低月齢の乳児では,不可能事象よりも可能事象の方を長く注視する場合があり,この場合の視線は回転中に誤った(ターゲットの入っていない)対象に向いていること. これらの結果は,これまで認知・予測といった高次機能とは独立して捉えられがちであった眼球運動の発達が,実際には高次認知能力と密接な関係にあることを示している.また,乳児の注視行動において,従来指摘されてきた「新奇性と親近性」の問題(乳児は新奇な対象に対して注意を向けることが知られているが,同時に親近性の高い対象についても注意を向ける傾向も持つ)に対しても,本研究は解決の糸口を提供している. 現在,視線データの時系列分析を行っており,注視行動を指標とした注意・予測におけるダイナミックな側面が定量的に捉えられることが期待される.
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