研究概要 |
本研究における本年度の成果を以下に述べる. 研究計画時点からの予想どおり,ソフトウェアシステムの脆弱性を定量化するに当たって,いくつかの問題点が洗い出されてきた.例えば,現在大きな問題となっているネットワーク化されたPC(パーソナルコンピュータ)の上に伝搬するウイルスプログラムが,個々のPCの防御の度合いを設定した上でどのように伝搬するかという問題を考える場合,格子状ネットワークを仮定し,シミュレーションによってなんらかの性質を調べることは可能であり,すでにいくつかの研究成果が発表されている.しかしながら,本質的な問題として,このようなシミュレーションを行う上での仮定が,現実の問題とどの程度類似あるいは乖離しているのかということに触れられていないということがあげられる.例えば,シミュレーションを行う上でネットワークの形状が格子状であるとすることは便利であるが,現実のWAN(wide area network)は決して格子状ネットワークではない. 本年度はこのようにして,多くの文献を調査することで,複雑なシステムの合理的なモデル化・記述が事実上不可能であろうことを再確認した.したがって,来年度に研究を完成させることを目指す上で,以下の点に注力し,ソフトウェアシステムの脆弱性の定量的評価モデルを構築したいと考える.すなわち,脆弱性をとりまくplausibleな仮定を見極め,その枠組みでモデル化を行う.その一つの方法として,ポアソン型白色雑音を用いた確率微分方程式によってモデル化が可能と考えられる,システム外部からの攻撃の到着モデルを開発したい.今年度の成果として研究発表欄に記載した論文は,このモデル化の先鞭をなすものとして位置づけられる.
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