本研究ではスクリーン上の日本語文書を読む際の脳性麻痺者と健常者の読みについて比較検討した。実験は脳性麻痺者12名、健常者6名を用いて行い、各被験者にスクリーン上に表示された日本語能力検定試験出題基準3級程度の200〜250文字からなる日本語文書(1文字5cmX5cm、視距離3m)を黙読させた際の所要時間及び、視線の停留の様相として停留時間、停留頻度、視線移動速度分布、サッケード距離について検討した。その結果、所要時間、停留時間、停留頻度については従来研究とほぼ同様の結果が示され、脳性麻痺者は健常者と比して黙読時間が長く、停留頻度は増加するが、停留時間は同様である傾向が示された。このことから従来研究と同様に脳性麻痺者の黙読時間の延長には停留頻度の増加が影響していることが示唆された。また脳性麻痺者の視線移動速度分布は、健常者と比して停留に伴う随従運動成分と考えられる速度成分が広範にかつ多く分布する傾向が示唆された。このことから脳性麻痺者の黙読時間の延長には、停留に伴う視線の随従運動の増大も影響している可能性が示唆された。ところでサッケード距離及び読み返し頻度については脳性麻痺者と健常者の間にはほとんど相違は見られなかった。このことから、脳性麻痺者の停留頻度の増加は、従来研究において想定したサッケード距離の短縮及び読み返し頻度の増加によるものではなく、読み返しのための移動距離の延長によるものである可能性が示唆された。以上のことから本研究により、スクリーン上に表示された日本語文書に対する脳性麻痺者の読み特性として、脳性麻痺者の黙読時間は健常者と比して長くなる傾向が確認され、この黙読時間の延長には停留頻度の増加に加えて停留に伴う視線の随従運動の増大が影響している可能性が示唆された。また停留頻度の増加は、読み返しのための移動距離の延長によるものである可能性が示唆された。
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