研究概要 |
本研究は,「リアルタイム地震防災システム」によって地震直後に提供される早期被害推定を,時々刻々入手される実被害情報に基づいて逐次更新するための基礎理論を構築し,実務面での利用を視野に入れた意思決定支援システムを開発することを目的としている.本研究では,実被害情報を被害推定にフィードバックする構造を持つ災害情報の逐次処理アルゴリズムを考案して,「迅速性と正確性」のバランスを考慮した意思決定支援システムの開発を進める. 本年度においては,既往研究の成果をベースにしながら,災害情報の逐次処理アルゴリズムと意思決定の数理モデルの構築・拡張を行った.具体的には,意思決定支援システムの中核となる逐次情報処理のアルゴリズムを,次のような流れに従って構築するとともに,適用性を広げるための拡張を行った. 1.地震直後に得られる地震動強度情報とフラジリティー関数(被害関数)を組み合わせ,初期被害推定を被害発生率(もしくは被害確率)の確率分布の形で算出する. 2.時間とともに蓄積される実被害情報を逐次的に組み込んで,ベイズ推定法により被害発生率(もしくは被害確率)の事後分布を更新するとともに,未調査部分の被害推定にフィードバックして「被害数」の予測分布を算出する. 3.逐次確率比検定(SPRT)の手法を用いて緊急対応の意思決定基準を数理的に定式化し,被害推定・被害情報・対応行動の三者を関連付けるルールをモデル化する. また近年,人工衛星リモートセンシング画像や空撮ハイビジョンTV映像が,リアルタイム地震防災システムの有力な情報源となることが期待されている状況を踏まえて,これらの情報を上記アルゴリズムに取り入れるための基礎的検討を行った.さらに,兵庫県南部地震において木造家屋被害が多数発生した神戸市灘区などを対象としたケーススタディーを実施し,提案モデルの適用性が高いことを確認するに至っている.
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