ジーベルト水素吸収装置を用いて、温度および水素ガス圧力を調整することにより水素濃度の異なるウラン-トリウム-ジルコニウム水素化物(UTh_4Zr_<10>H_x:x=18〜27)を作製した。これらの試料は、約1μmの粒径のUおよびZrH_x相がThZr_2H_xの母相に分散された3相から成る複合体であることがSEM観察よりわかった。前年度に作製したサファイア窓の試料ホルダーおよびレーザーフラッシュ法熱定数測定装置を用いて、UTh_4Zr_<10>H_xの熱拡散率を測定した。UTh_4Zr_<10>H_x中の水素の解離温度は10分間の等時加熱実験より573K〜773Kであったが、UTh_4Zr_<10>H_xの熱拡散率を773K〜940Kの高温領域まで測定することを可能とした。UTh_4Zr_<10>H_xの熱拡散率は673K以下の温度範囲では水素濃度の増加と共に増加したが、673K以上の温度範囲では水素濃度の増加と共に減少した。Uの熱拡散率は940Kまではほぼ一定であり、ZrH_xの熱拡散率は温度の増加と共に減少することがわかっているので、複合体の熱拡散率は各相の熱拡散率の和として表されると仮定すると、ThZr_2H_xの熱拡散率は温度の増加と共に増加すると評価した。とのことから、低温領域ではZrH_xの熱拡散率、高温領域ではThZr_2H_xの熱拡散率が大きく寄与すると考えられる。この熱拡散率の実験値を温度および水素濃度を関数とした評価式で表した。この評価式にこれまで報告されている密度および比熱を考慮して熱伝導度を求めた。熱伝導度は690Kを境界温度とし、熱拡散率と同様な温度および水素濃度依存性を示した。この熱伝導度に対する電子伝導の寄与について調べるため、直流4端子法により室温から600Kにおける電気抵抗率を測定し電気伝導度を求めた。熱伝導度、電気伝導度およびWiedemann-Franz則から、x=20以下のUTh_4Zr_<10>H_xの熱伝導度は低温では電子による熱伝導が支配的であるが、高温ではフォトン伝導の寄与が大きくなることがわかった。
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