研究概要 |
本年度は、Fe-Cuモデル合金に対してFeイオンを照射することによってカスケード損傷を伴った欠陥を導入し、陽電子ビームを用いたドップラー拡がりの測定によって欠陥生成に与える銅の効果を調べることを目的として実験を行った。 試料は焼鈍したFeと溶体化処理後焼入れを施したFe-0.05Cu, Fe-0.15Cu, Fe-0.9Cuの計4種類を用いた。これらの試料に対して、290℃と室温の2種類の照射温度にて、2.8MeVのFeイオンを深さ平均で0.1dpa照射した(使用加速器:東大HIT1MVタンデトロン)。照射後、HIT設置の低速陽電子ビーム実験装置を使って単色陽電子ビームによるドップラー拡がりの測定を行った。陽電子ビームによるドップラー拡がりの測定では、^<22>Na陽電子源を試料に密着させた場合に比べ、^<22>Naの崩壊で放出される1.27MeVγ線による半導体検出器測定スペクトルへの寄与が低減されるため、光電ピーク中央より高エネルギー側でS/N比が良い。この利点を生かして、内殻電子の情報を得ることのできる高運動量領域に着目した。 まずFe-0.9Cuを550℃で熱時効し、15keVの陽電子ビームによるドップラー拡がり測定で変化を追跡した。時効時間の増加に伴って、γ線スペクトルの高運動量成分は純銅での高運動量成分の分布に近づき、陽電子が銅析出物によって捕獲されたことを明瞭に示した。290℃Feイオン照射材では、右図のように空孔型欠陥生成によって高運動量成分が相対的に減少するが、銅含有量増加に伴って高運動量成分が増加し、純銅の高運動量成分の分布に近づいた。この傾向から、陽電子を捕獲した空孔型欠陥の近傍に銅原子が存在することが推定される。室温照射材ではより大きい体積の空孔型欠陥が生成・残存するため、高運動量成分が290℃照射材よりも減少するが、銅含有量の影響は290℃照射材ほど顕著ではなかった。 本研究成果は日本原子力学会2002年度春の年会において発表する予定である。
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