研究概要 |
森林に与える酸性物質の直接的および間接的影響を正確に知ることが緊急の課題となっている。本研究では、森林内の樹木と接触した降水中溶存物質が、地上に到達するまでに受ける水質的インパクトを定量化し、その過程において酸緩衝反応を支配する因子を抽出するため、(1)複数の樹種について、林外雨→林内雨→樹幹流のような雨水の流下過程における水質構成の特徴を把握し、(2)同時に、これまでほとんど手付かずであった大気降下物と樹木自体からの溶出物質の分離を試みることで各成分の由来をより明確にし、(3)樹冠通過雨水に含まれる未同定の有機物質に主眼を置いて、酸緩衝反応に寄与している物質を特定することを目的とする。 平成13年度は、山梨県富士吉田市及び甲府市の森林において、林外雨水および樹冠通過雨水の水文水質の継続的な観測を行い、水質構成の季節変動、降雨量や立地条件の影響をモニタリングするとともに、溶存有機物質について次のような成果を得た。(1)無機物,有機物による汚染を極力排除するよう現有の雨水採取装置に改良を加え、長期データの蓄積を可能とした。(2)主要無機イオンのバランスについて、異なる樹種及び気候の比較検討を行った結果、アカマツ林において多量の有機態イオンの存在量を推定し、冷涼な富士吉田ではその生産が抑制されている可能性を指摘した。(3)樹木標本を用いた溶脱実験による、大気由来物質と樹木生産物質の分離方法を初めて提案した。その結果、Ca, Mgや硝酸,硫酸は乾性沈着によりもたらされる割合が高いことが判った。(4)アカマツ樹冠通過雨のpHは、林外雨の酸性度よりはむしろ、樹冠内に付着した無機及び有機物との反応によって決定されることを示した。(5)樹冠通過雨中に含まれる少量の低級脂肪族カルボン酸を確認し、また、中和滴定法により複数の弱酸の存在とその酸強度を推定した。 以上より目的の(1),(2)は達成された。平成14年度は、未同定の弱酸の確認、HPSECによる未知有機物質の分子サイズ分析、そして最終的に、各緩衝成分の寄与度の定量化を試みる。
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