関東平野と中国華北平原における降水同位体組成をトレーサーとして、降水の起源とその輸送経路の推定を行った。その結果、関東平野の降水の起源は日本近海に存在し、その位置は水蒸気の流入方向と整合的であること、また、同位体組成の小さな降水は中部山岳地域を含む西日本上を輸送されてきたものであることなどが明らかになった。華北平原の降水については、モンスーン期初期には南シナ海起源の降水が卓越し、後期には起源域が東シナ海・黄海方面へシフトしていることが示された。一方、同位体組成の空間分布から、関東平野の対流性降水では陸域起源水蒸気の寄与が特に内陸部において多いことが示唆されたが、華北平原については、地表水・地中水の同位体組成が多様であるためか、明確な陸域起源水蒸気の混入のシグナルは認められなかった。 陸域における同位体組成変動をモデル化するため、草地圃場における微気象・土壌水文観測ならびに降水・土壌水の水質モニタリングを実施した。その結果から、土壌水の同位体組成は基本的に降水の安定同位体組成と土壌面からの蒸発量に依存しており、比較的単純なモデルでその変動を再現し得ることが確認された。今後は、これらの観測結果に基づき、陸域起源水蒸気の同位体組成変動をモデル化し、陸域再循環率の定量化手法の確立へ繋げてゆく予定である。
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