前年度に継続して、日本およびモンゴルにおいて降水サンプルを採取し同位体組成を測定した。また、同時に実施している気象・水文観測結果とあわせ、陸域水文過程における同位体組成変動の解析・モデリングを行った。その結果、密な植生条件下では降水の同位体組成はほとんど変化せずに大気へフィードバックされるものの、疎な植生条件下では非平衡な同位体分別効果が無視できないことが確認された。すなわち、降水に占める陸域起源水蒸気の寄与率を算定するためには、蒸発に伴う分別効果を受けた後の水蒸気の同位体特性をより詳しく知る必要がある。このため、水蒸気の同位体研究に関する世界的権威であるProf.Ronald Smithを米国Yale大学に訪ね、同位体組成測定用の大気水蒸気サンプリング手法ならびに解析手法に関して議論した。また、降水起源域の同定に関する共同研究に着手した。一方、従来の研究で行われてきた降水同位体の内陸傾度を用いた陸域再循環率の算定手法について、本研究で得られた同位体データをもとに検討を加えたところ、この手法は場の地理的条件に大きく制約され、東アジア域への適用は妥当でないことが明らかになった。したがって、東アジア域での陸域再循環率の算定においては、本研究で開発したFootprint Analysisの適用価値が高いといえる。今後、水蒸気同位体の実測結果を踏まえた改良を継続してゆく予定である。なお、Footprint Analysisを用いた研究成果は、地球物理学界において世界的に最も評価の高い国際学術誌(Journal of Geophysical Research)に掲載され、中国華北平原への適用結果については水文学分野の国際学術誌に投稿中である。
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