今年度は、瀬戸内海沿岸に位置し魚類養殖が盛んな志度湾(香川県)において底泥を採取、炭素、窒素安定同位体比を測定し、それらの分布を明らかにした。志度湾では魚類養殖の他に、牡蠣養殖も行われおり、日本沿岸でみられる典型的な複合養殖場と位置づけられる。その結果、魚類養殖場によって占められる海域の窒素安定同位体比が最も高く8 8.5‰、牡蠣養殖場が存在する海域では7.5‰前後であった。炭素安定同位体比は魚類養殖場が存在する海域で最も低く-21‰前後、牡蠣養殖場では-20‰前後となった。魚類養殖場における高い窒素安定同位体比と低い炭素安定同位体比は五ヶ所湾で得られた知見と一致し、養殖餌料が底泥への有機物の大きな負荷源になっていると思われる。一方、牡蠣養殖場では炭素安定同位体比は植物プランクトンのそれを反映しているのに対し、窒素安定同位体比は一般的な植物プランクトン値(6‰)より高くなった。これから、牡蠣養殖場では牡蠣自身が底泥への有機物負荷源になっていることを示唆している。また、湾の一部分で、冬期に底生藻が繁茂することが確認されており、そこの炭素安定同位体比は-19‰前後かそれ以上の値を示した。冬期に成長が著しい藻類の炭素安定同位体比は高くなることが五ヶ所湾の研究で明らかになっており、この海域底泥への底生藻の寄与が示唆された。来年度は餌料、牡蠣、底生藻などエンドメンバーとなりうる因子の安定同位体比を明らかにするとともに、養殖場の影響の少ない内湾の炭素、窒素安定同位体比を明らかにし、養殖場の負荷の大きい志度湾の有機物循環について解析、魚類養殖場の餌料が周辺海域に与える影響評価法を提示する。
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