研究概要 |
環境化学物質には内分泌系を攪乱するだけでなく、微量で免疫系に深刻なダメージを与えるものが多い。ところが、免疫系を指標にした環境評価はいまだ体系化されておらず、このことは化学汚染による生体影響を複合的・包括的に理解する上での隘路となっている。そこで本研究は、魚類の免疫系を指標に化学物質による暴露評価系を構築し、それを野生種に適用して複雑で多様な化学汚染とその生態影響を総合的に評価することを目的とした。 具体的には、ムツゴロウ(Boleophthalmus pectinirostris)を対象に、内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)による魚類免疫系への影響評価に関する研究を行った。ムツゴロウの血液中ヘモグロビン濃度・リゾチーム活性・NBT還元能・ポテンシャルキリング活性を測定したところ、それぞれ13±2.0(g/dL),950±440(unit/ml),0.27±0.017(OD 540nm),0.035±0.024(OD 540nm)であり、養殖魚の生体防御機能の把握を目的に測定されている免疫指標が、野生魚のムツゴロウでも定量可能であることがわかった。 有明海の2つの調査地点(大牟田・住吉)より採集したムツゴロウについて、有機塩素化合物(HCB, HCHs, PCBs, DDTs, CHLs)の分析を行った。その結果、大牟田産の検体は住吉産のものに比べHCB, HCHs, PCBs濃度が1-3桁程度高値を示し、本地域がこの種の化学物質による深刻な汚染を受けていることが明らかとなった。一方、化学物質の残留濃度とヘモグロビン濃度およびリゾチーム活性との間に有意な関係は得られず、化学汚染による免疫系への影響は確認されなかった。 今後、本海域の野生魚類を対象に化学汚染と免疫系への影響に関する詳細な調査を行う必要がある。同時に、VTGやP450酵素等の測定を行い、内分泌系および薬物代謝酵素系を併せた多面的な汚染評価を進める予定である。
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