兵庫県内及び周辺地域において、これまでに河川の生物調査が行なわれた報告書や学術論文を収集し、これに基づいて魚類及び水生昆虫について調査地点の位置情報、生物種の分布、採集年、出典などの情報を地理情報システムを用いて統合型のデータベースを作成した。これと同時に、気象や地形・地質、植生図などの環境に関する基盤情報もGISデータとして整備を行なった。これらのデータベースに基づいて、2つの観点から集計・解析を行なった。まず底生動物の現在量と環境要因との関連性について解析を行なった。その結果、現存量の多寡に影響する環境要因(河川形態、河床型)と季節性との関連が明らかになった。さらに、種組成のうち造網性トビケラ類(ヒゲナガカワトビケラ属)の占める割合が現存量の多寡に大きく影響することが分かった。また、現存量の分布特性と標準的な値についても明らかにすることができ、湿重量で20g/m^2を超える地点は全体の2割程度と少なく、一般的にはこの値以下となる場合が大半であった。 次に山地渓流に生息するイワナの分布情報(既存情報)と独自に実施した野外調査データに基づいて、環境要因との関係をモデル化することで潜在的な生息地(ポテンシャルハビタット)を地図として推定した。推定には、ロジスティック回帰モデルを採用した。モデルの推定に有効となったパラメータの中では地下水温(推定値)の寄与が大きく、イワナが生息可能と考えられる閾値以下となる河川の流路長も分布を制限する要因であることが分かった。その結果、河川の横断工作物による分断化は個体群の存続に著しい影響を及ぼすものと考えられた。現在、同様の手法を用いて、数種類の水生昆虫及び魚類各種の潜在生息域の推定と現地調査による分布データの収集を行なっている。
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