2000年に単離、構造決定が報告されたメリラクトンAは、極めて低い濃度(0.1μM)でラットの皮質ニューロンの神経突起の伸張活性を示す。このような神経栄養性因子用活性を示す低分子は、アルツハイマー病に対する薬として期待されている。メリラクトンAあるいはその類縁体は、多数の四級炭素とオキセタンを分子内に持ち、全合成自体が挑戦的な課題である。また、天然からの供給も困難なことから、活性発現機構の研究のためにも、実践的な合成による供給が不可欠である。そこで本合成では、生物学的研究を視野に入れ、収束的かつ柔軟なルートで全合成を達成する事を第一の目的とする。さらに、メリラクトンAの構造活性相関、標識化により、神経栄養因子用活性に関っているたんぱく質を明らかにするための生物学的プローブ開発を第二の目的とする。 光反応によりまず2つの四級炭素を同時構築した。得られた化合物から閉環オレフィンメタセシスを経て8員環を合成した。8員環ジケトンの立体選択的分子内アルドール反応で、メリラクトンの5-5の縮環システムを得た。さらに、本化合物から四級炭素の導入などの炭素-炭素結合反応を経て、メリラクトンのすべての必要な炭素を有する化合物の合成に成功した。今後は、酸化度の調整などを経て、メリラクトンAの全合成を早急に完成させる予定である。また、分子内アルドール反応の不斉化の検討も同時に進行しており、現在までに、60%eeで5-5の縮環化合物を得ることに成功しており、不斉全合成も達成する予定である。
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