本研究では、糖タンパク質からタンパク質分解酵素を用いて2分岐型糖鎖を単離することからはじめた。2分岐型糖鎖は鶏卵から単離した。2分岐型糖鎖は、アスパラギンが結合した糖鎖アミノ酸として約1グラム得ることができた。そして、この基質に対し、0.1NのHClを作用させ、非還元末端のシアル酸を除去したアシアロ糖鎖へほぼ定量的に変換した。そして、アスパラギンに、Fmoc基、メチルエステル基を導入して有機溶剤に溶けやすい誘導体へと変換後、この糖鎖が有する糖水酸基に対し様々な保護基の導入を試みた。保護基としては、シリル系、アセタール系のものを用いた。シリル系の保護基は、温度等制御して糖鎖への導入数を調整したが、糖鎖の両分岐鎖に、保護基が導入された。結果的には、反応性の高いジメチルアセタール基を用いることで、アセタール化された糖鎖誘導体を数種類得た。これらは、水を展開溶媒に用いることのできるイアトロビースカラムを用いて単離精製したところ、分岐鎖の一方に保護基が導入されたと思われる化合物を得た。次に得られた糖鎖誘導体のどの位置に保護基が導入されたのかを決定するために必要な新規NMR測定法を検討した。その結果、10個程度の糖残基からなる糖鎖の中から単糖のみの2次元COSYスペクトルを得る、2D-seleciveTOCSY-DQFCOSY法、および任意の単糖のプロトン-炭素相関のみ観測できる2D-selectiveTOCSY-HSQC法を確立した。現在は、この測定法を利用して、糖鎖の30個以上ある水酸基のどの位置に保護基が導入されているのか、詳細な解析を検討している。これに平行して、分岐特異的にシアル酸を酵素で転移させる実験に必要なCMP-シアル酸誘導体の合成を行った。誘導体としては、シアル酸の水酸基がデオキシ化されたCMP-デオキシ-シアル酸の化学合成を検討した。この誘導体を分岐した糖鎖の末端に転移させることで、生体内レクチン等が分岐鎖末端のどちらのシアル酸のどの水酸基を強く認識しているか調べるためのプローブを得ることができる。そして検討した結果、相当するCMP-デオキシ-シアル酸を4種類合成することができた。現在は、これら誘導体を用いて保護基の導入された糖鎖への転移反応と糖鎖の構造決定を検討している。
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