研究概要 |
不斉ならせん構造の形成に関するメカニズムの解明は、DNA2重らせん構造やペプチドα-ヘリックスなどの生体高分子の構造-機能相関を理解する上で、また、化学進化における不斉の発生を考える上で重要である。本研究課題では、柔軟な構造を有するらせん分子の不斉を光学活性ならせんテンプレートを用いて制御し、らせん部位間に働く非共有結合的な分子内相互作用を利用した単一方向性らせん集積構造の構築について検討を行っている。平成13年度は、らせん分子として非環状テトラピロールの亜鉛錯体である亜鉛ビリノンの二量体を、キラルヘリカルテンプレートとしてヘリセンおよびビナフチル誘導体を用いて合成し、円偏光二色性(CD)およびプロトン核磁気共鳴(^1H NMR)スペクトルを用いてそれらの配座平衡の解析を行った。ヘリセンをテンプレートする亜鉛ビリノン二量体の合成は、光学活性ヘリセン誘導体の合成が困難であることから、現在なお検討中であるが、ビナフチル骨格をテンプレートとする亜鉛ビリノン二量体は合成することに成功した。CDスペクトル測定から、(S)-ビナフチル基の6,6'-位からフェニルメチル基を介して亜鉛ビリノンが結合した一連の二量体では、右巻き-右巻きのホモヘリカル構造が安定であることがわかったが、亜鉛ビリノンが結合する位置によってその安定性が異なることが示唆された。^1H NMRスペクトルでは、亜鉛ビリノン骨格とビナフチル部分が近傍に位置する二量体では、それぞれのコンフォマーが独立して観測されたのに対し、亜鉛ビリノン骨格とビナフチル部分が離れている二量体では1化学種のみ観測され、それらのコンフォマーが同様なスペクトルを与えた。以上の結果から、亜鉛ビリノン部位とキラルテンプレート間の距離や配向が光学活性なホモヘリカル構造の安定化に重要であることが示唆された。
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